大和屋 巌 遺作展

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絵:紫の帽子
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題名
紫の帽子
大きさ
60号
1994年

第82回日本水彩展出品

「紫の帽子」
色彩の冒険
 紫と黄色という補色を使いながらハーフトーンの調子のように見える不思議な作品である。非常に難しい色彩の冒険をしている。
 椅子の上に紫の帽子があって、紫の靴を履いた女性が座っている。その紫と、肌の黄色と黄色っぽい衣装のコントラストが激しい。紫は、左手前のソファー、壁に掛けられた古代の彫刻風レリーフの色彩にリフレインされ、ややピンクを帯びた肌の色は、下の絨毯の黄土、あるいは右にある食器棚の茶、壁の茶というふうに展開していく。その間には、黄色みがかった肌色と紫をつなぐように緑が使われている。人物の背景にある不思議な模様の緑のカーテン、緑がかった黄土っぽい衣装が、一種の中間色としての効果をもってこの色層を連繋している。
 フォルムが力強い。特に手の表現には感心した。ほの赤いというか柔らかな中間色で、指の一本一本までが実に生き生きと描かれている。細密描写という意味ではなく、手の実感、美しさがよく捉えられている。こういうハーフトーンの色彩が使用できる力を持ちながらあらかじめわかった効果に安住せず、色彩の冒険をあえてする画家に敬意を表したい。(高山 淳)
「美術の窓」(生活の友社)/1994年8月号 №138